STORY
成長しない。反省しない。期待しない。
渚の酔いどれ詩人(ビーチ・バム)ムーンドッグの終わりなき狂騒の日々。
ムーンドッグ(マシュー・マコノヒー)は、かつて天才と讃えられた詩人。しかし今は、謎の大富豪である妻ミニー(アイラ・フィッシャー)の果てしない財力に頼り、アメリカ最南端の“楽園”フロリダ州キーウエスト島で悪友ランジェリー(スヌープ・ドッグ)らとつるみ、どんちゃん騒ぎの毎日を送っている。浜辺でうたた寝し、酒場を飲み歩き、ハウスボートでチルアウトし、時たま思い出したようにタイプライターに詩をうつ…。そんな放蕩生活を自由気ままに漂流していたが、ある事件をきっかけに、ムーンドッグは一文無しのホームレスに陥ってしまうーー。
人生、山あり谷あり。ふと振り返れば、取り返しのつかないこと、もう決して元には戻らない、失われてしまったものばかり。そんな「クロースアップで見れば悲劇」に満ちた世界に、ムーンドッグはルーズな抵抗を試みる。不運には酩酊と爆笑を。不幸には目を伏せたくなるほど下品で、とろけるほどロマンティックなポエムを。
「俺のために世界がある」とうそぶくムーンドッグの、気持ちいいもの、好きなものだけを追い求める超テキトーでポジティブな生き様は、束の間、光を放つ。その光は無類に美しく、思いがけない感動で観客の心を優しくときほぐし、忘れえぬ至福の感情もたらす。映画史上最高にハッピーな、永遠に終わらない夏休み(サマー・ブレイク)が始まる!
COMMENT
浅田 彰批評家
自己規制(自粛)と相互監視を逃れ、しかも「自由という名の野蛮」を振りかざして「死に至る悦楽」へと暴走することがない。軽やかに快楽の波に乗りながら、他者とともにあくまでも明るく生き続ける。
これはそんな真の自由人の姿を描く美しい映画――パンデミックと自粛で窒息しそうな私たちの社会に吹き込む一陣の涼風だ。
中原昌也ミュージシャン / 作家
いままで映画に出てきてヘラヘラ調子こいてるヤツなんて、皆んな死んじまえばいい、と思っていたが…こいつだけは違う!
マーベルやDCが束になっても勝てない、アメリカン・ニューシネマ以来の本物のヒーローの登場に興奮の連続‼︎
小山田壮平ミュージシャン
何か大きなものに翻弄される時代は終わり、これから私たちは、一人一人の意志によって世界を、時代を作っていく。
そんな楽しい風の時代に、ムーンドッグの物語は力強く光り輝く。
金原ひとみ作家
圧倒的野蛮と圧倒的繊細の同居。ムーンドッグの生き様は、物を持ちすぎた現代人に解放と無力を教えるだろう。
石野卓球電気グルーヴ
主人公のムーンドッグはもちろん、ほとんどの登場人物がアメリカのバカ田大学を出ていると思う。最高でした。
菊地成孔音楽家 / 映画批評
人類は、「何でこの数十年間、我々は暗く窮屈で、苛立ちと恐れに満ちた世界にいるのだろう?ひょっとしてそれは、幻だったのではないか?」とまで思うだろう。60年代の東宝映画のようだ。チーチ&チョンのビーチサイド、と見立てるよりも遥かに、主人公は「大麻を吸った無責任男」であり、「キー・ウエストの若大将(の、とんでもない老後)」である。音楽も凄い。大麻吸引時の視覚である事を最後までやめないカメラと共に、「東京物語」みたいな穏やかな奴がずっと鳴っている。凄まじいハッピーは、感動や震撼や癒しなど、生きるのが辛い人々の大好物も余裕で吹き飛ばしてしまう。中年になったハーモニー・コリンがこれを作ったという事実が何より素晴らしい。
メイリンアーティスト/ZOMBIE-CHANG
正しく生きるって何だろう。じゃあ楽しく生きるって何だろう。ムーンドッグは幸せなのか私にはさっぱり分からないけど、彼の詩に1回だけ感動する事ができたのは彼が生きてるからだと思う。
松㟢翔平俳優
史上これほどまでに自由な男の映画があったであろうか。
とまで言うとかなり大げさですが。近年まれにみる自由爽快な映画です。
近年まれというのも、みりん適量などと同じくらい曖昧な言いようなので、もっとくだけて言えば、最近観たなかでぶっちぎり、自由で爽快で気持ちが良くて勇気の出る、素敵な愛の映画でした。
観ないと後悔しますよ。
とそれも大げさですが、観ないとちょっともったいないかもしれません。
休日の昼過ぎの回を観て、劇場から出たら三時四時。
帰り道、陽の伸びた中を缶ビール片手に散歩したりしちゃったら最高かなって思います。
酒村ゆっけ、作家/酒テロクリエイター
酔っているのか、自分?と終始思わされるくらい酔っ払った世界観とハイに人生を楽しんでいる主人公。自由奔放で破天荒な振る舞いであるが、誰よりも繊細で傷つきやすい心の持ち主なのかもしれない。酒やドラッグによって堕ちていく人生が描かれる作品は多かったが、これらをポジティブに自己肯定感を爆上げするために活用する作品は斬新だ。ある種、明るく賑やかな太宰治なのかもしれない(飲み過ぎ注意)。
荘子itDosMonosトラックメイカー/ラッパー
D.H.ロレンスの詩『ピアノ』と、ムーンドッグ自身が詠む『美しい詩』は、同じ感動惹起構造を持つ。
人間は、「そこにあるもの」を媒介としつつ、「そこにないもの」に感動する。
ムーンドッグに憧れる者と、ドナルド・トランプに憧れる者も、同じ心理構造を持つ。
不道徳とヘドニズムの先に無垢な魂を幻視するのだ。
『ガンモ』で少年達が撃った「猫」と、『スプリング・ブレイカーズ』で少女達が誇示した「銃」を、パラフレーズし抱きかかえ、浜辺に打ち上げられた『ミスター・ロンリー』の亡骸を振り切り海に浮かぶムーンドッグは、過去の構造をすり抜け、「そこにあるもの」と享楽を徹底的に追求することで、現代の『素晴らしき放浪者』となる。